宮島沖(広島・廿日市市)を走る木造船―。
櫂を漕いでいるのは、高校生です。
大崎上島に伝わる手漕ぎ船「櫂伝馬」をPRしようと、地元・大崎海星高校の生徒が、宮島の厳島神社までおよそ90キロの大航海に挑戦しました。
24日朝、広島・大崎上島町の木江港を出港し、音戸大橋(呉市)を通って江田島市で1泊。
翌日は原爆ドームに立ち寄り、宮島の厳島神社を目指しました。
大崎上島町には厳島神社の分社があり、宮島とは古くから親交があります。高校生だけで宮島に向かうのは、初めての試みです。
航海2日目の朝、櫂伝馬は原爆ドーム前に到着しました。
生徒たち
「楽しかった。手にマメができたんですけど」
「宮島に来るのは初めて」
― 90キロって聞いて、どうだった❔
「90キロもあるの❕❔」
「今、初めて聞いた😲」「いつもの2倍以上ある」
参加したのは1年生34人、2年生は9人、3年生10人の合わせて53人。
生徒たちは、原爆ドームで黙とうを捧げると、櫂伝馬に乗り込みました。
大崎上島の櫂伝馬といえば、地区ごとのチームで争われるレース「櫂伝馬競漕」で知られています。
海運業の発展を祈願するために始まったとされ、200年以上続く伝統行事です。
しかし、参加者は年々減り、さらにコロナ禍でレースは3年間中止。若い世代への継承も途絶えかけています。
「旅する櫂伝馬」実行委員会 藤原啓志 会長
「伝統をつなげようということで、大崎上島から宮島に航海をして、いろんな人にPRして、さらには高校生には櫂伝馬に乗ってもらって漕げるようになってもらえれば、地元の祭りのときにもぜひ乗ってほしいと思っているので」
一行は、いったん原爆ドーム前を出発しましたが、途中で向きを変えると、観光客が見守る中、SUPとのレースに挑みました。
川を南に向かい、広島湾を目指します。
櫂伝馬は、長さ11m、幅1.5mの手漕ぎの木造船―。
漕ぎ手14人が左右に分かれ、太鼓の音に合わせて「ヨイサー」のかけ声で櫂を漕いで進みます。
船頭が船尾に立ち、大きめの櫂を操って舵を取ります。最高時速20キロにもなるといいます。
川の周りから声援を受けながら、櫂伝馬は海へと進んでいきます。
途中、船に乗り換えて昼食タイムも🍴
手のひらの皮がはがれ、テーピングをしているのは、3年生。
高校最後の年に、宮島への航海が実現しました。
県立大崎海星高校 3年担任 勇修平 教諭
「よくがんばっていますよね。今回、3年生って一部しか出ていないので、だからこそ、出ている子は逆に授業をがんばっている。
練習の次の日は遅刻せんようにがんばっていくとか、そういう姿が立派だなと思います」
櫂伝馬はいよいよ、宮島に近づいていきます。
最終ゴール・厳島神社まで残り数百メートル。待ち受ける観光客にも太鼓の音やかけ声が聞こえてきました。
保護者
「子どもが乗っています。夏が来たら、男の子たちはやっぱり櫂伝馬に乗りたいですよね。盛り上がるんだと思います」
櫂伝馬は、一糸乱れぬ櫂さばきで、大鳥居にゆっくりと近づいていきます。
厳島神社の大鳥居をくぐりました。90キロの大航海を終えました。
一行の代表
「大崎上島というところから、きのう、漕ぎ始めて2日がかりでやってきました。しかも、大崎海星高校という高校の生徒だけでやってきました」
櫂伝馬初挑戦の1年生たちに聞いてみました。
初挑戦の1年生たち
「とりあえず今は感動しかないです」
宮城から
「めちゃくちゃ疲れました」
― ゴールしてどう❔
「がんばってよかったなと思いました」
東京から
「最初やったときは本当に疲れて、あんまりやりたくないと思っていたんですけど、みんなといっぱい声を出して、最終的に楽しいというこれだけの結果になって、すごく満足です」
保護者
「感動して涙が出そうになりました。みんな、大きい声を出して、『ヨイサー』と櫂を漕いで、久しぶりに息子に会ったんですけども、成長をすごく感じられました」
― 櫂伝馬ってどうです❔
「かっこいいです。ずっと続いてほしいなと思います」
大鳥居前では乗船体験会も行われ、観光客が櫂伝馬に乗り込みました。
生徒たちが太鼓をたたきながら櫂の漕ぎ方を伝えました。
参加した人たち(大阪から)
「『ヨイサ―』というかけ声で進むところが楽しかったです」
― 難しかった❔
「いや。意外とかけ声に合わせてやると、非常にスムーズにできて楽しかったです。ぜひ残してほしい、とてもすばらしい伝統だと思います」
生徒たちは、大崎上島とゆかりのある厳島神社に参拝しました。
最後に保護者・先生たちも一緒に記念撮影に収まった大崎海星高校ですが、島の少子高齢化で生徒数が減り、2014年の県教育委員会の方針で廃校などの対象となる80人を切った年度もありました。
県立大崎海星高校 前田秀幸 校長
「2年連続で全生徒が80名を下回れば、統廃合の対象となるということが決められていましたので」
30人収容できる寮を整備するなど、大崎上島町の支援もあり、現在、全校生徒は97人。
北海道から鹿児島まで、3分の1以上は県外からの生徒だそうです。
県立大崎海星高校 前田秀幸 校長
「生徒と地域をつなげていくということが大切。
その中で総合的な探求の時間『大崎上島学』といいますけど、それを充実させていった。地域の方には助けられています」
櫂伝馬の伝承も地域とのつながりに大きな役割を担っています。
1年生(大阪出身)
「大崎海星高校の魅力は、こういう櫂伝馬の伝統行事だったり、生徒がやりたいことを生徒から進んで行動できるところ」
1年生(大崎上島出身)
「櫂伝馬は大人になっても死ぬまでやっていきたいと思います」
「旅する櫂伝馬」実行委員会 藤原啓志 会長
「県外の高校生も海星高校に来てくれたから櫂伝馬を体験できたと思う。
だから卒業しても、夏になったら櫂伝馬のことを思い出して、上島に帰ってきてほしいなと思います」
最後に地元・大崎上島出身の生徒会長に櫂伝馬の魅力について聞いてみました。
大崎海星高校 道林海斗 生徒会長
「今までコロナとかで櫂伝馬だけじゃなくて、いろんな行事が中止されてきたのですけど、最後の年に大きなイベント、旅する櫂伝馬で宮島に行くことができて、最高ですね。
地域の人との絆が深まったり、クラスの中で絆が深まったりというのがあるので、櫂伝馬は大崎上島の宝物ではないかと思っています」