みなさん、大野あさりをご存じですか。
宮島と対岸の大野に挟まれた大野瀬戸で育てられたあさりで、身は肉厚でコシがあり、旨みが驚くほど濃厚です。噛めば噛むほどじわじわ広がる風味とコクがたまりません。あるシェフが「料理人泣かせ」と言うほどしっかりとした味わいなので、海の香りとあさりの味をそのまま楽しめる「水蒸し」で食べるのもお勧めです。
大野のあさりの美味しさの理由は、穏やかな潮流と温暖な気候、さらに宮島の河川などから運ばれた栄養素が豊富な干潟に恵まれた自然環境にあります。でもそれだけではありません。その海の恵みを生かしながら大切に守ってきた人々の努力の賜物でもありました。
廿日市市下の浜(旧大野町)の浜毛保漁協を訪れ、大野あさりの特徴についてお伺いしました。また、あさり掘りを続けて48年になる小西美代子さん(73歳)にもお話をお聞きしました。
漁協のすぐ近くに対岸の宮島が見える磯に干潟が広がり、ここであさりを生産しています。
ここでは県から場所を借り、約150人の同漁協の組合員が配分されたエリアを各自で管理する「区割り漁法」を行なっています。これは全国でも珍しいのだとか。干潟に打ってある杭が区画の目印。自分のエリアに、魚除けの覆い網をかけたり、海藻や殻の掃除をしたりするなど、良いあさりを育てるためにそれぞれ努力しています。各自がしっかり維持管理することで、干潟全体が整備され、海の恵みを守ることにつながっています。
大野あさりのもう一つの特徴はあさりを丁寧に手掘りしているので、何より砂をかんでいないこと。また、大きく育った貝のみ掘り出せるのだとか。
ちなみにあさり掘りができる干潮は、春、夏は昼間、冬は深夜の時間帯が多いそうです。冬は真っ暗で手が震える寒さの中、ヘッドライトの明かりを頼りに手掘りしているとのことで、苦労がしのばれます。
組合員の方々は日々、大野あさりを守ろうと研究もされてきました。昭和50年代初めには自然環境の変化により、全滅の危機に陥ってしまいました。しかし、「干潟、自然を守ろうということをモットーに、研究会を立ち上げて稚貝の育成、砂や牡蠣殻を入れるなどして自然を取り戻す努力を続けています」と山形組合長。その努力が実り、今では広島県内はもとより他県からも視察が訪れるほどです。
大野あさりのふくよかな味わいは、自然を守ろうという思いと皆さんの一つひとつの努力から生み出されているのですね。
今ではこのあさりを地産地消として地域の学校給食に出したり、子どもたちに手掘りや掃除を体験させたりするなど伝統の大野あさりを伝える活動もしています。
次は、そんな伝統のあさり掘りの現場にお邪魔して小西美代子さんにお話をお伺いしました。
浜毛保漁協のすぐ近く、潮風が心地よい磯には区画を示す杭がある干潟が広がっています。その一角で小西さんはお宝を掘り出すように、熊手を使ってザクザク小気味良い音をたてながら手際よくあさりを掘り出し、粒よりのものは収穫し、小さいものは残します。そしてあさりを網に移して海水できれいに洗い流します。
手掘りしたあさりを手にした時の笑顔が何とも素敵な小西さんです。
広島から嫁いできて最初は義母と一緒に磯に出たという小西さん。途中子育てや在宅介護を挟みながらあさり漁業を続けてきました。
「最初から磯に出るのが楽しかったですね。コロコロ大きいのが出る時は気分がいいですよ。磯は広くて晴々して気持ちもいいですし、宮島を眺めながらですから」と笑います。磯に出て掘り始めるとついつい2時間、3時間たってしまうのだとか。昔は1時間で10キロはとれたといいます。
もちろんあさりを掘るだけではありません。自分の区画に稚貝を巻き、掘り返し、掃除もしながら育てていきます。
「砂を良く掘り返して酸素を入れて潮で洗われると、身の太りがいいので、順番に掘り返しています」と全体をしっかり掘り返すなど手入れも怠らないそう。またあさりをついついたくさんとりたくなりますが、「大きく育つまでの我慢も必要」と小さいものは砂に戻すなど、見守りながら大切に育てています。
ただし自然なので時には赤潮に泣かされたこともあったそう。また、魚除けの網にアオサがついたり、砂を盛り上げるホトトギス貝がついたりもします。その撤去作業や網の掃除は手間がかかり大変なのだとか。
そんな労力も立派な大野あさりを育てたいからこそ。今では自由な時間が増えたからと、ますます精力的に掘りに出かけているという小西さん。「手掘りなので一つ一つ貝の生育を見ながら心をこめて掘っています。大野あさりの伝統はぜひ残していきたい」と思いを話してくれました。
小西さんをはじめ漁協の組合員の方々が慈しむように大切に育ててきた大野あさり。一度食べるとその魅力にはまってしまいますよ。
※販売は期間限定なので問い合わせを
浜毛保漁業協同組合
廿日市市下の浜4-17
(0829)-54-1448