レポート
2025.11.23

“もうひとつの海猿”海上自衛隊・潜水員 「バディ」が挑む2か月間の極限訓練

海の安全を守る最前線といえば『海猿』として知られる海上保安庁の潜水士を思い浮かべるかもしれません。しかし、日本の海には ほかにも精鋭たちがいます。

海上自衛隊の潜水員です。

その厳しい教育課程の現場に、テレビニュースとして初の潜水取材を行いました。

 

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教官
「早く行け❗バディを助けてやれ」
「海に壁は無い❗バディが待ってるぞ❗諦めるのか❗❗」

水中でのトラブルを敢えて作りだし、極限状態での冷静な判断力を養う訓練。

自衛隊の潜水員育成では恒例の風景です。

 

 

精鋭が集まるのは、広島県江田島市にある 海上自衛隊第1術科学校

全国で唯一、潜水員の基礎を学ぶ「開式スクーバ課程」がここで行われます。

 

海上自衛隊の潜水員の任務は、行方不明者の捜索や救助活動、艦底の調査・修理など多岐にわたります。中でも、特に高い技術を持つ隊員は、爆発物の処理や深海での救難作業といった、極めて危険な任務を担います。

全国の部隊から集められた精鋭たち。

泳力の確認や特殊な装置を使った潜水に対する適性などをチェックされます。体力、そして精神的に「適性なし」と判断されれば入校は許されません。

 

海上自衛隊 第1術科学校 潜水科教官 近藤貴昭 1尉
「言われたことが言われた通りにできているかを見ています。冷静に対応できてるか強い隊員を作ることを目的としてます」

 

 

全国から選ばれた23人の2カ月にわたる訓練がはじまる

この日、23人が入校を果たしました。

学生たちは、およそ2か月にわたる教育を受けます。

私たちは、その中の2人の学生に注目しました。

 

海上自衛隊 横須賀基地 護衛艦おおなみ 関広知 2曹
「年齢関係なくというところで、ラストチャンスだと思って希望しました。いち早く部隊に貢献できるよう頑張りたい」

海上自衛隊 八戸航空基地 宮元陵 士長
「地上救助員を目指していて入校しました。こういう課程では賞もあるので、そういう賞も狙いつつ、みんなで協力して修業できれば。(不安はないですか?)ないです」

 

 

最年長43歳と27歳の「バディ」

潜水員の基本は2人1組=「バディ」で行います。互いの命を預け合う 絶対的な信頼関係が求められます。

今回、バディを組んだのは、最年長43歳の関2曹と、16歳年下の宮元士長です。

 

関広知 2曹
「最初、静かだったので、前に出て発言するなど、積極性に欠けるかなと思ってた…」

宮元陵 士長
「43歳での挑戦についてはとても尊敬している。訓練においては年齢は関係ない、言いたいこともいうし、お互いを高め合いたいところは」

関広知 2曹
「思いをちゃんと返してやりたいなとの思いで訓練に臨んでいます」

 

水面に顔をあげて呼吸することは「死」を意味する

プールでは、水中の基本動作を体に染み込ませるため、反復訓練が続きます。ここで与えられた課題をクリアしなければ次に進むことはできません。

小さいころから水泳を習っていた宮元さんに比べ、水泳歴が浅く苦手な関さん。体力では宮元さんに劣ります。

 

海上自衛隊 横須賀基地 護衛艦おおなみ 関広知 2曹
「疲れてくると、自分に弱い心がでてくる。それに打ち勝ちたい」

海上自衛隊 八戸航空基地 宮元陵 士長
「(水中で)焦ったときに、意思疎通が出来ない部分があるので、改善していけたら」

教官「スノーケル無くなってるぞ!顔を上げるな」

 

水面で行われるこの訓練。実は、水中を想定したものです。

水面に顔をあげて呼吸することは、溺れること、つまり「死」を意味します。

訓練を支えるのは幾多の現場を経験してきた教官たち。厳しい言葉の裏には、「誰一人、死なせはしない」という、学生への強い責任感が込められています。

 

教官
「バディは、なんで死んだ❓バディは、なんで顔上げた❓それを家族(遺族)に説明できるように…訓練に臨め」

「パニックになっているやつを見捨てるのか❓レジャーダイバーを育ててるんじゃないんだよ、ここは。才能のあるやつだけ残ってくれたらいい。もう一度よく考え直せ❗❗」

海上自衛隊 第1術科学校 潜水科教官 井口昌之 1尉
プールサイドでは鬼になるよと。水面では瞬時の判断が必要ですので、厳しく指導していく」

 

厳しいだけではありません。

休憩中には気さくに声をかけ、信頼関係を築いていきます。

 

自然を想定した過酷な訓練、リタイア続出❗

教官「造波装置、起動する」
「想定開始」

課程の半ば、訓練の舞台は、高波や潮流・風などを人工的に作り出せる特殊な水槽へと移ります。訓練内容は、さらに濃密で過酷さを増します。

教官「復旧しろ!上がるのか」

このころから自らの限界を感じリタイアを考える学生も出てきます。

学生「…無理です」
教官「…わかった」

続けるか、やめるか。

最後は、学生自身の判断に委ねられます。

 

過酷な訓練で築き上げた潜水技術と信頼

 

連日の訓練で築き上げた潜水技術と、バディとの強い信頼を武器に、課題を乗り越えていく学生たち。

宮元陵 士長
「乗り切りましたね」

彼らの心の支えとなったのは、共に汗を流す仲間の存在でした。一度は諦めかけた学生が、仲間の声に後押しされ、再び立ち上がります。

学生「おかえり」

戻ってきた学生
「ただいま。みんなが励ましてくれたおかげで頑張れた。ここから元気でがんばります」

「バディ」という枠を超え、全員で困難に立ち向かう、一つの「チーム」がそこにありました。

 

「バディ」から1つの「チーム」に❗そして、新たな課題に挑む

訓練は最終段階へ。舞台は、実際の海へと移ります。

宮元陵 士長
「(もう少しで1位でしたね?)ちょっと悔しいです。学長、最後!」

関広知 2曹
「『もう少し頑張れないですか?』みたいな」

宮元陵 士長
「そんなこと言ってない」

関広知 2曹
「『もっといけます』と」

宮元陵 士長
「高台から飛び降りる課目で『20代には負けない』と聞いて、そこから言うようになった」

関広知 2曹
「言ったからには必死に、負けんように」

高度な連携が求められる「探索」

数ある潜水技術の中でも特に重要なのは、事故や災害のとき、活動の第一歩となる「捜索」の技術です。

実際の現場では、チームで動くため、これまで以上に高度な連携が求められます。

 

宮元陵 士長
「もっと話し合いしたいですね」

関広知 2曹
「そうだね確かに」

 

自然の海では、水底の泥の巻き上げによる視界不良を起こさないため、慎重な動きが求められます。また、限られた時間で成果を出すための鍵は、「作戦をシンプルにする」こと。関さんと宮元さんたちのチームは、無事、捜索対象を発見しました。

過酷な過程を乗り越えて…

およそ2か月にわたる過酷な課程を乗り越えた者だけが、この修業の日を迎えることができます。

その顔には、苦難を乗り越えた自信と、新たな任務への決意が刻まれていました。

 

海上自衛隊 横須賀基地 護衛艦おおなみ 関広知 2曹
「厳しい課程をやりきったっていうとこで、大きな自信になってます。部隊に帰っても、怠けることなく向上していきたい」

 

宮元さんは、入校時の宣言通り努力賞の1位を獲得しました。

海上自衛隊 八戸航空基地 宮元陵 士長
「すごい濃い時間を過ごしたので、散らばってしまうとちょっと寂しい気持ちはある。同じ任務でまた会うことがあると思うので、自分の身を守ることだけじゃなく、国民を守っていくっていう意思を持って働きたい」

 

彼らは、全国の部隊へ戻り、潜水員として新たな一歩を踏み出します。

 

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