「海のゆりかご」と呼ばれる「藻場」。
この「藻場」が今、年々減っていっているそうなんです。
その原因となっている『ある魚』と、それに抗う地元の取り組みを取材しました。
福山市の田島漁協です。
8月のこの日、地元の漁業者たちがある魚の捕獲に乗り出しました。
「やせとる」
「珍しいね」
「産卵してしもうたからまた増える」
それが…アイゴです。
大きさは15センチから30センチほど。ヒレには太くて鋭いとげがあり、毒もあります。
マルコ水産 兼田寿敏 営業部長
「ぼくら子どもの頃は、おったらしいんですけど、ぼくは名前も姿も見たことはなかったです。今はそこらじゅうにいます」
減少する「藻場」 原因はアイゴ?
福山市では、今、魚の隠れ家や産卵場所になる「藻場」が年々減少しています。
環境省の2023年度の調査によりますと、福山周辺の海域では、5年前と比べ、藻場が2割近く減少したということです。
この藻場の減少に、アイゴが関わっているのではないか…。
地元の漁業者はそんな仮説を立てています。
マルコ水産 兼田寿敏 営業部長
「ぼくらの考えでは、アイゴが食べているから、藻がなくなっていると思っている。まずはアイゴの個体数を削減するために駆除が必要」
田島漁協では、県と福山市の協力を得て、春ごろからアイゴの試験捕獲を開始。
港の岸壁にかごを設置し、週3日であげています。
多い時には、籠に10匹ほど入っていたこともあったそうです。
水中にカメラを入れてみると…。
アイゴとみられる魚が、海藻などをついばむ様子を捉えました。
地元漁業者はアイゴが増えた背景に温暖化があるとみています。
マルコ水産 兼田寿敏 営業部長
「(アイゴは)水温帯がだいたい17度を超えると動きはじめて、19度でものすごく活性化すると言われているんですけど、半年ぐらい19度オーバーの時期があるんですよ」
アイゴの影響は地域の特産品にも…。
この地域では海苔の養殖がさかんですが、近年、チヌの食害にあい、収穫に大きな影響が出ています。
兼田さんは、アイゴが海藻を食べ尽くしたことが原因ではないかと考えています。
マルコ水産 兼田寿敏 営業部長
「そもそもチヌは、ノリはあまり好きな海藻ではないと聞いていたので、それでも嫌いな海藻を食べに来るということは、よっぽど他に食べるものがないということの証かなと思いますよね」
専門家は「関係している可能性はある」
アイゴは、本当に藻場の減少と関連があるのか…。福山大学の金子健司教授は、学生たちとともに調査を続けています。
福山大学 金子健司教授
「(アイゴが)最近増えているのと同時に、藻場が減少しているのもありますので、関係している可能性はあると」
調査に使うのは田島漁協が捕獲したアイゴ。
解剖し、胃などの内容物に海藻が入っているかを調べます。
学生
「こちらの胃からまずは、中を開けてみようかなと思います」
胃の中に判別できるものは見当たりませんでした。
一方、これまでに田島漁協で獲れたアイゴの内容物は??
福山大学 金子健司教授
「種類までは分からないのですが、海藻と思われる、かみ砕いた物が入っていまして。それと多いのが、海藻についている小さい甲殻類」
金子教授は、アイゴが岸壁などに生えている海藻をつついて、一緒に小さい甲殻類を食べていると推測しています。とはいえ、調査はまだ途中段階。金子教授は海藻がないから甲殻類を食べているのか、反対に甲殻類を好んで食べているのか、判断つきにくいとしています。
福山大学 金子健司教授
「アイゴについて、どういうものを食べているのか、どういう生活をしているのかをもっと調べて、漁業者さんたちにデータを提供して、不安を解消することができたらなという風に思っています」
一方、藻場を増やそうという取り組みも始まっています。
「みえた、みえた」
9月27日に行われたのは、アマモの種を取る作業。地元のロータリークラブでは、2024年からアマモの繁茂に乗り出しました。
福山北ロータリークラブ 池田敏明会長
「自然の力だけでは、これ以上もとには戻らないと思うんです。だったら人間が手を出して、まず今の状態を維持する、その次は回復させる」
いかだには、7月に大崎上島町で採取したアマモが入っています。
地元の中高生やロータリークラブのメンバーなどが、アマモの入った網を引き上げます。
続いては、引き揚げたアマモから種を採取する作業。
「ちょっと白っぽい」「白っぽい」
「あっ、これこれ」「えー、そんなのを見つけていかないと行けないんですか」
「つぶれえないのが種になるよ」
海の中で成熟させたアマモの種は黄緑色で、大きさは2、3ミリほど。参加者たちは目を凝らしながら、ピンセットなどを使って、根気よく小さな種を探していきます。
参加者
「こりゃあ、難しい」
福山北ロータリークラブ 池田敏明会長
「みんな関心を持っていただいて、うれしいです。まず地域のみなさんに目を向けてもらいたい。“命の海”と私どもは呼んでいるんですが、これを未来につないでいきたい」
採取した種は11月下旬ごろに植え付けを行ない、発芽や生育状況を観察していくということです。
漁場を守るための戦いはまだ始まったばかり。
地域をあげての模索がまだまだ続きます。