レポート
2016.12.21

音戸渡船×花本智博さん

ブルブルッとエンジン音が響き、小船がポンポンと音を立てて海面をすべりだします。平清盛が1日で切り開いたと伝えられる音戸の瀬戸。呉市の本土と倉橋島の間にある約120メートルの海峡を音戸渡船が約3分で横断します。時刻表はありません。午前5時半~午後9時まで、1人でもお客がいればすぐに出航します。

音戸渡船の事業者で、船頭もつとめているのが花本智博さん(56)。花本さんは1937年からこの事業を家業とする3代目。1997年から自らも船を動かしています。

江戸時代に始まった音戸の渡船は、1961年の音戸大橋の開通までは本土と島を渡る重要な足となっていました。最盛期には4~5艘を10人以上の船頭が交代で運航し、24時間体制で1日約3000人を運んでいたそう。「2艘程度はフェリー並みの大きさで、時には引越しなどの荷物も運んでいましたね」と花本さん。

花本さんは国家公務員など別の仕事をしていましたが、事故にあって休養していた時、船頭から「船を動かしてみるか」と誘われたのをきっかけに、船の操作を覚え、免許も取得して船頭デビューを果たしました。
音戸の瀬戸は120メートルほどの航路ですが、フェリーや貨物船、漁船など「瀬戸内の銀座」と呼ばれるほど多くの船が往来し、潮の流れが急な難所でもあります。
「海峡が狭いため岸壁に当たった潮の流れが複雑で、毎日潮流が違います。そのため最初は桟橋を行き過ぎたり、遠すぎたり。きちんと横付けしてなんぼです」という花本さん。今は船の往来と潮の流れを縫いながら海峡を渡り、アクセルとハンドルを巧みに操作してピタリと桟橋に横付けします。

1961年の音戸大橋、2013年の第二音戸大橋の開通で利用客は減り、今の利用客は1日120人程度。船も2隻で市の補助金が頼りです。
しかし橋を歩いて渡るのは時間がかかり、バスは時間が決まっているため、すぐに対岸に渡してくれる渡船を必要とする人もいます。乗客の「ありがとう」という言葉を励みに、60代の船頭と交代で、正月と台風などの天候不良の時以外は船を動かし続けています。

イベントの開催や桟橋の修繕など地域の人々も協力して渡船を守ろうと活動しています。後継はまだ決まっていませんが「続けられるものなら続けたい」という花本さん。船を操り今日も出港します。

(音戸渡船)
大人100円
小人50円
自転車150円
時間 5時半~21時 随時運行
(アクセス)
呉駅から音戸倉橋方面行または音戸の瀬戸経由阿賀駅前行のバスで「音戸渡船口」下

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