レポート
2023.11.30

“海の女王” シロギス 光り輝く魚を完全養殖で量産化 広島の企業が初めて実現 沖縄で育てたシロギスが全国へ

透き通るような白さから「海の女王👸」と呼ばれる魚がシロギスです。

このシロギスの完全養殖による量産化を、全国で初めて広島県福山市の企業が実現しました。

 

午前3時半の福山地方卸売市場です。

夜も明けない市場に光輝く魚がありました。シロギスです。

白い肌をした魚に、多くの仲卸業者らの目が止まります。

 

シロギスは、11月から2月までオフシーズンになり、獲れなくなるといいます。

この日は、陸上で完全養殖されたシロギスが初出荷されました。

養殖シロギスの量産化は全国で初めてのことです。

7都府県の市場で、9000尾が取り引きされました。

15センチほどのシロギスが、キロ4000円から4500円で売られていきました。

養殖シロギスの量産化を実現したのは、市場内に会社を構える水産物総合卸売商社の「クラハシ」です。

量産化によって、一年中 シロギスが食べられることになりそうです。

 

なぜ、シロギスの養殖事業へと舵をきったのでしょうか―。

事業の中心を担った 倉橋彩子専務は、温暖化などで漁獲量が減っていることへの危機感がありました。

 

倉橋彩子専務

「世の中がマーケットインになっていて、消費者の望むものを 卸としては対応していかなくてはいけない。

魚も同じように獲ることが商売ではなくて、作って生産して それを出荷していくという『育む漁業』になっていくということがあって…」

クラハシがシロギスに着目するきっかけになった人が尾道市にいます。福山大学の 有瀧真人教授です。

有瀧教授がシロギスの養殖を始めたのは8年前からですが、当初は全くその気はなかったようです。

 

福山大学 有瀧真人 教授
「もともと養殖をするっていうつもりは全くなくて、学生の実験材料としてシロギスを導入して実験をしていたんです。

シロギスは、20センチを超えるのに4年ぐらいかかるといわれていたんですけど、実際飼ってみたら、1年半で20センチを超えてきた。

これだったら養殖にも使えるかなということで始まったんです」

 

「クラハシ」は養殖事業に適当な魚を検討していたところ、シロギスの養殖を手がけていた有瀧教授を知ることとなり、2018年から技術指導を受けるようになりました。

ただ、有瀧教授は福山大学で行う養殖では特別なことはしていないといいます。

 

有瀧真人教授
「加温もしないし、特別な何か装置をつくるわけでもなくて、シロギスはある程度の生残率で育ってくれている」

「クラハシ」は、沖縄県の最北端の村・伊平屋村(いへやそん)で養殖事業を展開しています。

地元漁協から容量50トンの水槽を3基借りて、そこへ因島などで取れたシロギスを入れ養殖を始めました。

今では12基になっています。

 

シロギスが泳ぐ沖縄の海の水は水温が18℃以上で、シロギスにとってはプラスの要素に働きます。

有瀧教授は沖縄での事業展開に太鼓判を押しています。

 

有瀧真人教授
― シロギスはどの時期がよく伸びる?
「夏場です。水温が15℃以上ないと、エサを食べないんですよ。

12月~4月の初旬くらいまでは水温がすごく低くなりますから、その期間は成長が止まってしまう。

クラハシさんが今やっている沖縄の水温は、常に18℃以上あるので、年中成長できるということで、瀬戸内海で育てるよりもまた1.5倍くらい成長が早いんですよね」

 

しかし、メリットばかりというわけではありませんでした。

2019年からクラハシは沖縄での養殖事業を始めましたが、当初はなかなかうまくいきませんでした。

 

倉橋彩子専務
「夏場は養殖場内が40℃を超えたりするんです。すると水温は28℃以上、30℃にも上がってしまいます。

仔魚(しぎょ・赤ちゃんの魚)にとっては、生存するのに非常に厳しい環境だったんだろうと…」

夏場の厳しい環境で、魚が全滅してしまうこともあったといいます。

そこで、赤ちゃんの魚=仔魚のために、温度管理の可能な「沖縄種苗センター」を2022年4月に開設しました。

ここでは、仔魚が3~4センチになるまで飼育するほか、養殖では海水の塩分濃度を下げるなどして魚の負担を減らし、育成を早めています。

 

こうして育てられたシロギスが今回、市場を通じて出荷されました。

 

出荷を前に、「クラハシ」と「沖縄種苗センター」などを結んでのビデオ通話が行われました。

 

天野文男社長
「魚体を冷やしておかないと、やっぱり輸送時、すぐ魚体温度が上がっちゃうんで、鮮度が悪くなるんだよ」

おいしいシロギスを届けたい―。社長から細かな指示が飛びます。

17日、沖縄の養殖場で初出荷へ向けた水揚げが行われました。

1年半の間に育ったシロギス。クラハシの社員たちが1尾ずつ手にとって梱包し、全国の市場へ出荷していきました。

 

福山地方卸売市場に出荷されたシロギスが福山市内の寿司店「魚勝」に運び込まれました。

 

職人
「ぬるぬる。沖縄のじゃけえのう。ちいと温いところで、身が弱いかもしれんけど、脂のっとるぞ」

 

いよいよ客の口に入る時が来ました😍

さばいただけでもシロギスの脂の乗りのよさが伝わってくるようです。

提供されたのは塩焼き・天ぷら・握りの3品です。

 

食べた人たち
「適度な歯ごたえと甘みがあっておいしいですね」
「甘みがありますね」
「もう少しやせているのが多いじゃないですか、天然のキスって。身がすごくふっくらしている感じがあって、ふわふわでおいしいです」
「キスはこの辺りはよく獲れるんですか❔」

 

魚勝 豊田健路 会長
「ここら辺も揚がるのは揚がるけど、今、入ってくるのは山陰が多いねえ。大きいサイズがおらんから、なかなか」
「これが安定して入れば使い勝手も良いし」

 

養殖シロギスの出荷はまだ始まったばかり。2025年3月には、10万尾の出荷目標を立てています

\ 記事をシェアしよう /
X LINE ニュースを共有

関連リンク

陸自隊員が “船乗り” に 自衛隊の新設部隊「海上輸送群」とは❔
レポート
2024.11.23

陸自隊員が “船乗り” に 自衛隊の新設部隊「海上輸送群」とは❔

離島に車両や装備品の輸送も可能🚢自衛隊海上輸送群に配備の輸送艦「にほんばれ」が進水式🎊
レポート
2024.11.21

離島に車両や装備品の輸送も可能🚢自衛隊海上輸送群に配備の輸送艦「にほんばれ」が進水式🎊

ページ内トップへ